宮司さんと歩く北畠神社。想像の城下町と、今ここにある庭園。

神社巡りは好きだけど、庭園にも興味はあるけれど・・。
行ってみると、見るポイントが分からず、なんとなく雰囲気を味わっているだけ!ということ、ありませんか?
私も見るだけ見て、本来の面白味は分かっていないということ、よくあります。
でも、少し知識があれば、見所を知っていれば、その場所をもっと楽しめるような気がする!

ということで、今回は宮司さんに案内してもらいながら、津市美杉町上多気にある「北畠神社」を巡りました。
お散歩気分で、一緒に見所を教えてもらいましょう!

北畠神社は、南北朝時代から室町・戦国時代にかけて、伊勢国司として活躍した北畠氏の館跡(やかたあと)です。

北畠氏の像
北畠氏

館は、織田信長の侵攻により残っておらず、どんなものが建っていたのかは、ほとんど記録にありません。
一方、その権力を示す「北畠氏館跡庭園」が現在も残っていることが、この神社の特徴です。

早速、宮崎宮司にお話を伺いました。

宮崎宮司。よろしくお願いします!

 

神社と田んぼが繋がった!

まず向かったのは神社の境内。

北畠神社境内

館にはどんなものがあったのだろう?とういことで、こちらの境内では、平成8年度から発掘調査がおこなわれています。

宮崎宮司:初めの調査では掘り足りず、何も出てこないということもあったのですが(笑)複数の調査で、高さ3mの石垣や、石垣に登る入り口となるスロープが見つかりました。

日本最古の石垣。保護のため普段は土嚢で埋まっている

境内の発掘調査が終わった後には、神社の道路を挟んで対面側、現在田んぼとなっている箇所の調査も始まりました。

宮崎宮司:絵図を見ると、ここは山に囲まれた細長い盆地で、国司の城下町となっています。沢山の屋敷が建っており、発掘調査でも、そのことが明らかになりました。お寺だけでも20いくつはあったと言われています。

多気城下絵図(津市美杉町ふるさと資料館)

絵図では、館の前に川が流れています。北畠氏の館から城下町に掛かる橋を渡ると、その先に当時の大通りがあったそうです。

館と城下町を結ぶ大通り

宮崎宮司:今あちらに、トラック一台程が通れる農道が見えますね。おそらく、境内の発掘調査で見つかった石垣のスロープは、あの農道と直線で繋がっています。今の農道が、昔の大通りだったと想像できますね!

田んぼの中の農道

—— なるほど!あそこに繋がるんですね。今は別々に見える神社と田んぼも、昔は城下町として一体になっていた。

宮崎宮司:想像だけ、想像だけですが。もう一つ、北畠氏のことが分かるものがあります。

 

なぜ、北畠氏は美杉に来た?

早速、北畠氏のことを知る手がかりとなるものを見せて頂きました。

北畠神社の境内

それは、こちらの天狗です!

宮崎宮司:天狗は、修験道(しゅげんどう)の象徴的な姿と考えられています。

—— 修験道?修験道について、ここに来て初めて知りました。

修験道とは、山に籠って厳しい修行を行う、忍者とお坊さんの間のような存在だそう。
様々な情報を持ち、戦国大名などにも情報提供をして、戦略を立てる際に協力していたことが分かってきました。

宮崎宮司:先ほど見て頂いた田んぼの向こうには、「白口峠」というなだらかな山があります。こちらは、歩くと松坂に繋がっており、他にも伊勢に繋がる伊勢街道、大和や伊賀に抜ける峠もあり、ここは交通の要所だったと言えます。

北畠氏は京都出身の公家。戦略上重要になる交通の要所を、知るはずはなく。この場所を教えたのは、正に修験道であったと考えられています。

—— 修験道の教えがあって、今の美杉の地に神社があるのですね。

宮崎宮司:はい、修験道がかなり重要な役割を果たしていたと思います。次は、幸いにも残った「北畠氏館跡庭園」を見に行きましょう。

 

庭園ってどこを見るの?

実は私、過去にも一度この庭園を訪れたことがあります。
いつかの秋、紅葉を見たいと思い立ち、「三重県 紅葉」の検索結果で出てきたのが、北畠氏館跡庭園でした。
その頃は「もみじが綺麗だな〜♪」と、上を見上げるばかり。

以前訪れた際の庭園の紅葉

しかし!今回の取材を経て、この庭はもっともっと趣深く面白いことを知りました。早速、ご紹介したいと思います!

北畠氏が眺めた景色

まず初めに驚いたのは、当時北畠氏が見ていた景色と、今見える庭の景色は大きく違うということ。

宮崎宮司:庭と建物の関係からすると多分、ここには北畠氏が庭を眺めるための部屋があったと思います。本来は、部屋の中から庭を眺める「書院式庭園」だったということです。

庭全体が見えるような床の高さがあり、昔の北畠氏の眺めた景色を想像して頂くには、この上(庭の入り口近くの椅子)に立って見て頂くのが良いかと!

—— なるほど、視点が違えば見える景色も違うわけですね。

宮崎宮司:そうなんです、今は大きな木があって、ここから見えませんけども、当初この場所から見えたのは、この地方で一番背の高い山、「局ヶ岳(つぼねがたけ)」だったと考えられます。庭の外にある景色を借りて楽しむ、借景(しゃっけい)と言いますね。

 

勝手に生えた木!?

更に他にも、北畠氏が生きていた時代と全く異なる点が!
庭の中でも存在感のある杉の木や、カヤの木、ムクロジの木、けやきの木は、なんと当初はなかったというのです!!
これらの木は、北畠氏が滅んだ後、自然に生えたか、植えられた木だそうです。

築山(土の盛り上がっているところ)の奥に見えるのが、樹齢400年以上の杉の木

宮崎宮司:掃除していると分かりますけども、この庭には色んな木の種が落ちて、育ってくるものがいっぱいあります。掃除で取れるものは拾いますけど、石組の間の種は取れないんですね。

このあたりの紅葉は、石組の間から生えていることから、人の手ではなく、種が自然に大きくなって庭木になったことが分かります。他所の庭では考えられないような、野生的というか、自然の景観と言いますか、それがこの庭の特徴ですね。

あの木もこの木も、自然に生えた木!?

—— こんなにも立派な木が自然に育ってきたなんて凄い!庭の雰囲気にマッチしているのも凄い!!

実際に、宮崎宮司が子どもの頃、木の株の中に出ていた小さな芽も、50年経つとすっかり庭木に育っているそう。自然の力、偉大です!

 

石を使って作った海、山

今度は少し、専門的な角度から、庭の見方を教えて頂きました。
庭の入り口から向かって左側にある、石の集まり。

これは、水を使わないで石だけで庭を作る「枯山水」という技法が用いられています。
この部分は特に、庭を作った「細川高国」の趣向が凝らされており、細川氏が亡くなる前に書いた文章にも「沢山の石を使って作った海、山を」とあるそうです。

木の右側の石が、天にそびえ立つ須弥山

宮崎宮司:大自然を家の中に表現するのが庭園。仏教の中では、世界の中心にある山を「須弥山(しゅみせん)」と言い、ここでは真ん中の一番背の高い石が須弥山。周りには、九つの山と八つの海を表す石が点在し、上から線で結ぶと、渦巻き状(螺旋状)に点在する形で組まれています。豪快な力強い枯山水で、庭の専門家の中でも有名です。

 

なぜ渦巻き状に組まれているのかというと、どこから見ても、非常にバランスが良く、美しく見えるからだそう。
庭園史研究家の中田勝康氏は、この螺旋状の線がどのように繋がるのかを具体的に研究しており、次のような複数の説が考えられています。

一本の線が二回りしている説
二本の線がそれぞれ渦を巻いている説
三本の線がそれぞれ渦を巻いている説

石の並び方一つとっても、奥が深い。

琴橋

ちなみに、この庭園に使われている石のほとんどは、美杉の丹生俣(にゅうのまた)地区の川から運んだもの。琴橋付近の石だけは質が異なり、伊勢志摩からの石が使われているそうです。伊勢国司とあって、力の見せ所ですね。

 

美しさを今に繋ぐ

最後に、宮崎宮司が一番嬉しそうにお話しくださったことをご紹介します。
それは「苔」のこと。

取材日は雨。苔の黄緑が、しっとりと美しい。

宮崎宮司:庭園を扱う本のほとんどに、この庭園は紹介されとるのですが、最近「美しい苔の庭」という新しい本に掲載されましてな。

烏賀陽百合 著「美しい苔の庭」

宮崎宮司:昔は鎌で草刈りしていたんですが、今は雑草が生えると手で取って。落ち葉を掃除する時でも、苔の生えるところは、ほうきを使わず手で取って。

苔を剥がさないように、大事に、大事にしてきたので、苔が綺麗に広がって。このような本に取り上げられたのは非常に満足なことです!

思わず触りたくなるようなフワフワのみずみずしい苔は、宮崎宮司の手入れの賜物。
北畠氏の権力と、庭を作った細川氏の構想、自然の力、後にここに生きてき人々の手を経て、今の庭がある。北畠氏の時代から姿形を変えてきた庭園は、様々な力が合わさった作品のようで、時を越えた美しさを感じるのでした。

さて、ご紹介した神社と庭園の見所も、ほんの一部に過ぎません。
実際に、目で見て、感じて頂ければ幸いです。
お読みいただきありがとうございました!

 


 

北畠神社(北畠氏館跡庭園)

〒515−3312 三重県津市美杉町上多気1148

TEL:059ー275ー0615

HP:http://www.tsukanko.jp/spot/183/

https://misugi.org/feature/kitabatakejinjya/

Facebook:https://www.facebook.com/kitabatakejinja/

・公共交通機関でのアクセス

JR名松線「伊勢竹原駅」から「丹生俣」行き市営バスにて約40分「北畠神社前」下車

・車でのアクセス

伊勢自動車道「久居IC」から国道165号線・県道15号久居美杉線経由、車で約60分

 

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